No.09 おにぎり
銀座の私の診療所の患者さんで串揚げで有名な「はん亭」のご主人から聞いた話です。
ご主人の知り合いで、昔、その方のお宅に鍋、
釜持って串揚げを作りに行ったことがあるという陶芸家で、
明星大学の先生でもある高橋紘先生という方がおられます。
高橋先生は8年前から車いす状態でありながらも、
元気な右手で次々と力作を発表されており、
その上「陶芸の原点はごはん茶碗作りである」という信念の下、
毎年学生たちを連れて、米どころで名高い新潟の魚沼へ茶碗を焼きに行っておられます。
ところが、今年はその最中、あの新潟県中越地震が発生し、
各農家に民宿していた学生もろとも大災害に遭われました。
誰もが生まれて初めての経験で震えるさなか、
最も被害に遭ったはずの地元の方々は、
かき集めた”おにぎり”を一番最初に彼らに配り、
大学に帰すことに奔走したそうです。
コンビニの”おにぎり”しか知らない学生たちは、
本当の”おにぎり”のおいしさと農家の方々の温かさに感謝し、
涙したそうです。
はん亭のご主人にも同じような思いがあるようで、昔山口県の仙崎に引き上げて来て、
最初に食べた”おにぎり”の味が今でも忘れられず、
「やっぱり死ぬ時、最期に食べたいもの”おにぎり”だね」
とおっしゃいます。
現在私はご主人のその時(?)、いかにおいしく”おにぎり”を食べていただこうかと、
彼の入歯作りに苦労しております。
こうして、人の最期の欲を満足させるための仕事を持っていることは
幸せであるとともに、改めて身が引き締まる思いがいたします。
たかが”おにぎり”
されど”おにぎり”ですね。
カテゴリー:デンタル小町 投稿日:2008年5月17日