vol.8 訪問診療にアドバイス
以前私はまだ介護医療がこんなに注目をあびていない頃、
訪問診療をしていた時期があります。
(それは『はい、あ~ん、お口を開けて』(悠飛社)という本に
まとめてありますから、これから訪問診療をされようと思われる方は、
ぜひお読みください。)
ではなぜ訪問診療を始めるようになったのかということから
話しを始めましょう。
それは時々、地域の歯科医師会から
訪問診療の当番がまわってきた時のことです。
義歯を専門とする私は(卒業後、河辺清治先生のところで義歯の勉強をした)
勇んで出かけると、前回の、そのまた前回の先生たちの義歯製作のヘタなこと!
寝たきりの患者さんは3カ月も待っているのに、まだ咬合採得状態です。
そこで私は合わなくなっている旧義歯を即効で修理をし、
咬めるようにしたのです。とても喜ばれました。
そんなこんなで、訪問診療の現状を知った私は、
義歯が苦手な歯科医師に作らせてはおけないと立ち上がりました。
まず近くの病院へ行き、院長、婦長さんにお会いして話しをし、
その方々に患者さんになっていただき、
いろいろな事を理解していただいた後、
さらに提携病院もご紹介いただいて、私と私のスタッフは、
手探りで訪問診療を始めました。
でも、現実には、辛い事の方が多かったと思います。
最近、やっと誤嚥性肺炎とか、嚥下障害とか言われていますが、
口の中を清潔にすることが、どんなに大切なことかを理解していただいても、
実践していただくことは非常に困難でした。
つまり介護士の方々は、シモの世話に手一杯で、
口の中の世話まで手がまわらないのです。
それでも介護士の方々に段々理解をしていただき、
やとコップに入っていた入れ歯が消えた頃、
介護保険の大改正、ケアマネージャーの制度が導入されたのです。
私はアッという間に、抱えていた病院から閉め出されました。
ケアマネージャーと結託した歯科医師により、現場を乗っ取られたのです。
そのため、どうにも私に診て欲しいという患者さんは、一旦退院をして、
私を呼んでくださいました。
その煩雑さに、私の情熱は消えました。
当時、ケアマネージャーさん用にパンフレットも用意して、
今まで私のやってきたことの理解を求めましたが、ムダでした。
私は、キッパリと訪問診療を止めました。
そして、10年近くになり、
最近、訪問診療を始めようとなさる方が増えてきたようなので、
老婆心ながら気になることをアドバイスさせていただきます。
1. まず旧義歯を修理できること
(新義歯より、使い慣れた旧義歯を修理した方が患者さんに喜ばれます)
2.上体を起こして治療すること
(食事をする姿勢で治療をしましょう)
3. 寝ていても義歯は口の中に入れたままで
(義歯はナイフとフォークではありません。
突然、口の中に入れられた義歯でモノは咬めません。
24時間、入れたままで慣れ親しんだ義歯でこそ、
自分の歯のように、よく咬めるのです)
4.義歯は咬むためのものですが、更に残存歯は守るためのもの。
顔貌を若々しくするためのものです。
そのため、咬合調整をきちんとしてあげましょう。
5.介護の方、身内の方に、義歯の洗い方、
口腔の清掃の仕方を指導してください。
(汚い口の中に美味しいものがはいってきても、美味しく感じられません)
6.寝たきりになる前に、寝たきりにならないように、
良い義歯を入れておくことが大切だということを言い続けましょう。
まだまだ一杯ありますが、興味がある方は前述の本を読んでみてください。
面白くてタメになりますよ。
連絡はコムネットまで…