vol.17 歯科難民
前回“現状の治療にお悩みの方は、お気軽にご相談下さい”と明記してある
「福を招く看板」のことをお話し致しましたよね。
この看板の効果かどうか、最近他院での治療中にもかかわらず
相談に来られる方が増えてきましたが、
その相談の内容に驚くやら呆れるやら……。
改めて自分の歯科医人生を振り返り、日々反省と勉強に励んでしまう今日此頃です。
〈相談 Aさんの場合〉
下顎の4、5、6、7の両側欠損、歯槽骨の厚みは1センチ程度、
前歯部はグラグラの状態でのセカンドオピニオンです。
「他院で下顎の左の4番の部位にインプラントを1本だけ入れることになりました」
「1本だけインプラントを入れて、その後ろはどうするのですか?」
「考えていません」
「そちらの先生はどのように言われたのですか?」
「何も言ってくれませんので心配で来たのです」
「こんな薄い骨にインプラントを1本だけ入れてもしょうがないのですが…
私なら義歯にしますよ」
「義歯は咬めないしみっともないじゃあないですか!」
「それはAさんがいい義歯というものを知らないからです。これを見て下さい」
と私の患者さんの症例をパソコンでお見せすると、
「本当ですね。義歯を入れているように見えませんね」
「ではそのグラグラの前歯はどうすることになっていたのですか?」
「これも抜いてインプラントにすると言われました」
「確かに1本は抜くことになると思いますが、全体的に歯並びもよくありませんので、
ブリッヂにして美しくしてはどうですか?」
と、又、私の患者さんの症例をお見せすると、
「よく理解できました。先生にやっていただきます」
〈相談 Bさんの場合〉
上顎前歯部6本と、臼歯部に部分的にテンポラリークラウンが入っており、
そのテンポラリークラウンが常時脱落するのが困るということと、
矯正で臼歯部を挙上し、インプラントを2本入れるため、
費用と期間がかかり過ぎるので困って来院されました。
「矯正で臼歯部を挙上しなくても、白い歯で美しく挙上できますよ」
「では、インプラントはしなくてはいけないのでしょうか?」
「確かにあまりいい歯ではありませんが、20年以上も何事もなかった歯ですので、
とりあえずもう一度再治療をして咬めるようにしてみましょう。
それでもダメになったら、ブリッヂという手もありますので
その時に考えてはいかがですか?」
「そうですね。助かります」
「それより、その前歯の仮歯が少々出っ歯で大き過ぎるのですが、
もっと美しくしませんか?」
「やっと美的な事まで判っていただける先生に会えました。費用も期間も助かります。
よろしくお願いします」
〈相談 Cさんの場合〉
3年以上の矯正治療の結果、まったく咬めなくなり、精神科に通うようになり、
困り果てて来院されました。
……見てびっくり!臼歯部がまったく咬合していません。
模型をとり咬合器に装着して説明すると、目に涙を溜めて
「やっと私の苦しみを判っていただける先生に会えました。
お願いです、治して下さい」
「私にとって、Cさん症例を治すのは簡単なことですが、
矯正の先生にはどのようにお話しなさいますか?」
「ずーっと、ずーっと、咬めないと言い続けて来ましたが、
今に上の歯が降りてきて、咬めるようになると言われて1年以上放置されたままです」
「フーム、困りましたね」
現在Cさんの御主人が医者ということもあり、私の作ったCさんの模型を持って、
正の先生とかけ合っていますが、この件に関しては結果待ちです。
(こんな事を言うと反発を受けそうですが、
還暦を過ぎたおばさんの言うことと聞き流して下さい。)
ただ歯が無いからインプラントを入れて、歯並び悪いとワイヤーをまいて…と、
行きあたりバッタリの治療の結果、「歯科難民」を増やし、歯科医への信頼を損ねています。
特に患者さんは、入れたインプラントが悪くなった場合、
その先生の所へは戻らず違う医院へ助けを求めます。
そのため、インプラントを入れた先生は、
自分の仕事は大成功をしていると勝手に思い込んでいるのです。
まず咬合が大切です。
そして、1口腔単位で治療を考えるという当り前のことが、
どれだけの先生でできているのでしょうか。
最近、日々勉強の必要性に駆られて頑張っている私です。
恐くて、すごく面白い仕事にはまってしまいました。