vol.20 講演会
私の父は今年89才になりましたが、まだ現役で義歯を作っています。
その父の若い頃は大変おこりっぽくて、いつも患者さんをどなっていましたが、
田舎(福井県)のことですし、のん気なお年寄りはそれでも来て下さいました。
手伝っていた高校生の私は患者さんに同情して、
父のことを詫びると
『ここの先生は恐い先生だけど腕が良くて、いい入れ歯を作ってくれるから…』
と私に向ってにっこり笑い返し、父を心から信頼している様子です。
36才で歯学部を卒業する時、私はこれからの同輩より短い臨床人生と
高齢者が増える将来とこの父を信頼しきっていた患者さんの笑顔を思い出し、
当時義歯の第一人者だった河邊清治先生の門をたたき、
運良く弟子に入り込むことができました。
先生はまず初めに
「技術より私の会話を盗みなさい」
と診療室で何も分からず目を泳がせるだけの私に言われました。
見学に行く日は朝から胃が痛く、緊張の連続でしたが、
患者さんへの接し方、気の使い方、思い返せば父以上に河邊先生を尊敬し、
あこがれていました。
段々と技術を盗めるようになり、患者さんに喜ばれるようになると、
私自身すっかり義歯にはまっておりました。
その頃にもインプラントの失敗で、
河邊先生のところへかけ込んで来られる患者さんがおられましたが、
先生はいつも
『いいか何事も10年待ちなさい!10年たって信用できるようだったら、そこで考えなさい』
その言いつけを守っているうちに20年以上過ぎてしまいましたが…
昨日、大阪で4時間の講演をしてきました。
50人の定員だったのですが、80人近い受講者の応募に前日は緊張で寝れませんでした。
スライドの仕上がりが遅く、練習なしのぶっつけ本番なのに不思議なものです。
伝えたいことが溢れ出ます。
1人も退席されることなく4時間が過ぎて、
帰りに受講者の方々と写真をとったり、握手をしたり…
―疲れた~
東京の我家へ帰り、バッタリと寝てしまいました。
翌朝、ケータイに娘からメールが入っていることに気がつきました。
『ママへ
お疲れさまでした。
今回のセミナーとても良かったよ。
ママの緊張が伝わってなのか、私トイレが近かったよ(笑)。
あれだけの聴衆に堂々と話しているママは格好良かったよ。
河邊先生、喜んでいるだろうね。
これからのセミナーどんどん頑張っていこうね。
頼りなかったり、イライラさせてしまうけど、できる限りサポートしていきます。
日本だけじゃなくて、世界を目指して1人でも多くのデンチャードクターの育成、
1人でも多くの患者さんを救っていけたらいいね。
ではゆっくり休んでね。』
(私のセミナーのスライドはアップル歯科の院長の小泉先生か娘が作ってくれています。
今回は娘がパニクリながら作ってくれました。)
私は朝っぱらから目が熱くなり、にじむ涙をあふれさせていました。
河邊先生、喜んでくれていますか!
これからも頑張ります。
どうか力を貸して下さい。
モリタの皆さま、私にチャンスをくださって感謝します。
本当にありがとうございます。
講習会に来て下さった先生方、どうかこれから、もっともっと義歯に挑戦して下さい。
そして、小泉先生と娘とスタッフへ
ありがとう!