vol.31 “求む、歯科医師”
今年は天候不順で全国的に雨の被害が多発しましたが、皆様は大丈夫でしたか?
私は梅雨の最中にクーラーが壊れてサンザンな目にあいましたが、
ピーカンの沖縄へ講演に行き、今は周りの人たちに不思議がられる程日焼けバッチリです。
昔から”色白は七難を隠す”とか、ガンになる、肌に悪いと、
日焼けをしないように言われていますが、それは化粧品メーカーの陰謀で、
私のような年になると”色黒は七難を隠します”。
つまり肌の衰え、シミ、ソバカスを黒く塗って隠してしまった方が、
健康的で若く見えるのです。
ヨーロッパのセレブおばさんたちはみんな小麦色に日焼けしているでしょ!
エッ、私のは黒すぎるって!
さてさて、そんなことはどうでもいいような事が起きてしまいました。
4月から勤めていた若い歯科医師が、突然辞めました。
研修を終えたばかりの彼は、募集を出していた当院に”頑張ります。
なんでも出来ます。義歯がやりたいです”と応募してきました。
運動クラブもやっていて、真面目そうで、明るいので採用することにしましたが、
開口一番”僕は何でも出来ますし、親から独立するので生活していくために、
給料は30万円からにしてください”と自己アピールをしました。
バカバカしい言い草ですが、期待感を持った私はその30万円を認めました。
ところが、研修期間に何をしていたのか、形成なんてめっそうもない、
レジン充填さえ、まともに出来ません。
「何ですか? このレジン充填は!!」
「前のところは、これでいいと言われました」
「前のところとここは違います。仕事はきちんとしてください」
と、だんご状のレジンを掘り起こし、やり直すと「へ~」と突っ立っています。
「まず歯型彫刻から始めましょう。1日5本削ってください」
「抜去歯牙で、根治の練習をしてください」
「エポキシ模型で形成の練習をしてください」
「保険請求の赤本を全部読んでください」
「実際の患者さんの口腔内の扱いに慣れるために、スケーリングはあなたがしてください」
以上の事が守られているのかどうか、彼は毎晩、毎週、飲みに行っているそうです。
当院の矯正担当の先生に食事に連れて行ってもらった時には、
反対方向にもかかわらず、矯正の先生に自宅まで送らせたそうで、
それ以降、矯正の担当医は彼を相手にしなくなりました。
スタッフを見下し(助手と歯科衛生士)、
私の目の行き届かないところでは彼女たちを無視しているそうです。
問診と、ちょっとした処置しかしていないにもかかわらず、
患者さんが受付で彼以外の先生を希望されているというのに、
本人はいたって明るく元気でとても楽しそうでした。
2ヵ月が過ぎた頃、私は彼にカミナリを落としました。
1.あなたは自分で言う程、何も出来ませんので、給料から5万円引きたい位ですが、
今月はその5万円で歯科医師らしい服を買って、身なりを整えてください。
2.飲み代として給料を払っている訳ではありませんので、
スタッフに毎晩飲んでいる事や遊びに行った話ばかりしないでください。
スタッフはあなたを尊敬しなくなります。
3.ベテランのスタッフたちに、バカにされないような態度と
仕事への取り組み方を考えなおしてください。
4.日々、勉強してください。
5.この1ヵ月、以上の改善が見られない場合は、来月から5万円引きます、
そして3ヵ月経っても努力が見えない場合は、辞めていただきます。
当院へ来てちょうど3ヵ月、私のカミナリが落ちて1ヵ月が経過する直前の2日前!!
「先生、ちょうどキリが良いので、今週で辞めさせてください」
「今週とは、どういう事ですか?」
「自分で決めました。
母に相談したら、母もちょうどキリがいいので今週一杯で辞めたらと
言ってくれました」
「普通の親なら、自分で売り込んで就職したのなら、
認めてもらうまで頑張りなさいと言うものですが、
親に常識がないのでは、話になりませんね」
私は、話にならない会話を打ち切りました。
私が彼から受けた傷は浅くて済みましたが、
娘は彼のために素敵にデザインした名刺を特注し、彼に渡していたのです。
また、チーフはいつも着た切りスズメの彼に安いですが服を買い与え、
一人生活のために食器、その他生活用品をそろえてあげていたそうです。
私は娘が渡した名刺を取り上げ、彼に捨てられるくらいならと私自身で捨てました。
気骨のある先生はどこにいるのでしょうか。
最近の若い人は”気骨”という言葉さえ知らないのでしょうね。