天ママStyle vol.70 笑顔
患者さんという方々は、歯医者さんを決めるとなかなか浮気をしないらしい。
つまり【かかりつけ歯科医】として長い付き合いに安心している方が多いのですが、私としましては、その決めた歯科医が《かかりつけ》という価値に値するかどうか、時々見極める必要があるように思います。
20年近く、同じ歯科医院に通っていた方が、近くに引っ越して来られ、当医院に来院されました。
この方のお口の咬合平面は極端に斜めになっており、入っているインプラントは用を成しておりません。
長い年月、この方の【かかりつけ歯科医】は何をしたかったのか、はたまた何をしてきたのか、全く理解できないひどい状態でしたが、患者さん本人は気づいておられません(?!)。
このような時は、まず手鏡をご自身で持っていただきます。そして笑うようにお願いをします。
もちろん、おもしろい事を言って笑いを誘いますが、手で口元を隠し、無理に笑おうとされますので、私はその手を取り払い、歪む笑顔を直視していただきます。
「Aさん、ご自分でも気付いておられるとは思いますが、他人はこのような笑顔のあなたに対面しているのですよ。
人生、相当、損をしていませんか?」
今まで無意識にご自身の口元を見ないようにして来られた患者さんは相当ショックを受けられます。
そこで私は、どうしたら美しい笑顔を作ることができるか、口の中が銀歯ばかりの場合、なぜ白い歯にした方がいいのかを、優しく詳しく説明します。
アホな先生は、白とか銀色とか色の違いで、高い・安いと言われますが、本当の白い歯は、咬み合わせがしっかり考えられており、金属アレルギーを防ぎ、肩こりや頭痛も治し、もしかして恋のお助けまでするのですよと申し上げます。
するとショックでこわばられていた患者さんは、やっと緊張を解かれ、私の話を聞こうとなさいます。
結局Aさんは、長い付き合いの歯科医と縁を切り、私に付き合ってくださる事になりました。
4ヵ月後、白い歯はもちろんの事、美しい歯並びになり、美味しく食事をされ、ボケる心配もせず、毎日、自信たっぷりの笑顔で過ごされています。
先日、そのAさんに依頼され、池袋の芸術劇場のセミナールームで『歯無しにならない話』というテーマで歯のお話をいたしました。
・歯科治療の実態
・歯の役割
・全身と歯
・インプラントと義歯
・保険治療と自費治療
・いい歯科医の見付け方
・そして笑顔の作り方
等々を1時間半、熱く語りました。
私はこのセミナーで一般の方々のデンタルIQがいかばかりのものかが知りたかったのですが、予想以上に低く、皆さん目を丸くされていた事に、私の方が驚きました。
きっと私の話があまりに本質をつき過ぎていたことと、歯に衣着せぬ語り口のせいでもありますが、彼等の日頃接している歯科医師から詳しい説明やアプローチがまったくなされていない事が原因ではないかと思います。
私達は立派な歯科医としての目標を掲げ、患者さんの納得を得て、良い治療をする!! という信念を持ち、日々研鑽する義務があることはもちろんですが、患者さんと歯科医師が共に手を組み、歯科医療を高めていくことが大切なのではないかと思います。
そのためには、歯科界を分析し、患者さんに歯科医療の実態をお話する勇気がさらに必要とされるかと思います。
私は今回、一般の方々に歯のお話をする機会を得ましたが、一番言い回しに苦慮したのが《自費治療=高額》という固定概念を取り払い、《自費治療=良い治療》と思っていただく事でした。これからも、この《高額》という固定概念の払拭には、相当エネルギーが必要とされるでしょう。
池袋セミナーの後、聴講してくださった方が来院されました。
「先生、私、笑えないんです。キレイな笑顔になりたいです…」
「大丈夫よ。では練習してみましょう…ネ」
私が帰宅する頃、メールが入りました。
「先生、電車の中で練習しています。やってみま~す」
………よかった。