天ママStyle vol.71　一匹獅子（ライオン）

前号で、一般の方に「歯無しにならないお話」という講演をした事をお伝えしました。

この講演の効果はすぐに表れ、聞いてくださった方々から歯科相談に来られる方が増えたのです。そこで見えてきた事は、前回にかぶりますが、いかにまともな歯科医師が少なく、破壊者が多いかという事です。

（Ａ）さん

今まで近いというだけの理由で、コンビニのような歯医者さんに通っていたが、とうとう咬めなくなり（？！）、私のセミナーを聞いて、ヤバイと思い、飛んで来られました。

【口腔内所見】　とりあえずの銀歯、抜けたまま放置されたスペース、とりあえず当たっているだけの上下の咬み合わせ状態。

（Ｂ）さん

痛くて痛くて、かかりつけの歯科医院に行ったが、原因は歯ではなく、整体に行くように言われた。それでも痛みが止まらず、三叉神経痛か胃腸炎（？）が原因と言われ、私の講演を聞いた友人に紹介されて来られた方です。

【口腔内所見】　なんと右下７番の頬側歯顎ラインに沿って縁下にむし歯が浸蝕していて、深針でつつこうものなら飛び上が

らんばかりの露髄状態です。

（こりゃ～痛いわ。なぜ判らん？！）

ついでに咬合をチェックすると銀歯が入った左側は咬んでいません。本人も右が咬めなくなって初めて、左が咬めていないと気がついたとか（？！！）

（Ｃ）さん

昨年、ご主人をガンで亡くし、自分も脳梗塞になり、意気消沈しているところに歯が欠けた…。歯医者は嫌いだが天井先生なら優しそう（？）だから来院されたという。

【口腔内所見】　治療はされているのですが、銀歯も白い歯も、歯の形を成しておらず（咬合面がない）、またしても右側が咬めていない状態。聞くと右側の頭部で脳梗塞が発症し、肩こりも右側で、右側はいつも血行が悪く冷たいとか……

（それおかしいですよ！　大変ですよ！）

（Ｄ）さん

この方は、私の講演を聞いてはおられませんが、ホームページを見て、来院されました。

【口腔内所見】　臼歯部は全滅（歯がない！）、前歯部はつぎはぎ治療、言葉もなく絶句…でも、なんだか治療の跡はある。

さあ、皆さんどうしますか？

（Ａ）～（Ｄ）の患者さんにどう接しますか？

私の場合は、まず優しく笑顔で患者さんの現在の情況に同情します。

そして、今までに何があったのか？　忙しかったのか？なぜ放置したのか？等々を伺います。

それから、「この歯はダメ、これもダメ」とマイナスの表現を避けて、「これは大丈夫かも、この歯は使えるかも」と失ってしまった歯ではなくて、残っている歯に希望を持たせて話します。

そして肝心な事は患者さんのどこまで治したいかという気持ちを尋ねます。

「咬めるようになりたい！　キレイになりたい！」

すると私は「大丈夫です。咬めるようにも、美しくもできますよ。さらに肩こりも偏頭痛も治ります」と答えながら、患者さんのお口の模型を採らせていただき、

「次回までに模型をよく見て、考えておきますね。次回、ご自分でご自身の歯型を確認なさってください。そして、私と一緒に考えてください」

ここまでくると、患者さんはすっかり安心され、次回の予約を楽しみにされます。

私はそれから２つの石膏模型を並べ、ワックスアップをし、不定愁訴の原因を探り、理想的な、そして美しい模型を作り上げ、治療計画を立てます。

再来院時、慎重に現状の模型と理想的に咬める美しい模型を患者さんに提示し、詳しくかつ熱く説明します。

これが、日々勉強を心がけ、やっと辿り着いた現在の私の治療の仕方です。

非常に当たり前のことで、当然のやり方です。

しかし、咬合の勉強、義歯の勉強、形成の勉強等々、勉強には終わりが無く、いつもいつも焦っていますが、現在の私でできる最良の治療をさせていただきたいという心意気は患者さんに通じるようで、ほとんどの患者さんに、喜んでいただける結果を得ています。

後日談です。

（Ａ）と（Ｂ）の患者さんは治療が始まりました。

（Ｃ）さんは治療費が高額なので、死んだ主人に悪いとかで治療を断られました。「死んだ人の事より、生きていく自分の事を考えなさい！」と言いそうになりましたが…

そして（Ｄ）さんは、子供の受験にお金がかかるのでと諦められました。「お金がかかる大学には入れないで国公立に…、それがダメなら今時の大学は入らない方がイイヨ…」と言いそうになりましたが、それも止めました。

小さな口の中の事なのに、全身で受けるストレスで、私の老眼はヨレヨレ、肩は神経痛、腰はガタガタ…。でも根っからの歯科医の私は、孤軍奮闘頑張っています。

私、一匹獅子（ライオン）的なのが好きなんです。