天ママStyle vol.73 あなたに逢えてよかった!
私が36歳で歯学部を卒業した事は、皆様、ご存知ですね。
そして30年が経ちましたが、このあっという間の30年間に出逢った素晴らしい出逢いを、ほんの少し紹介します…
実家へ預けていた娘には、あと2年間という約束で勉強のため東京へ出て、義歯の河邊臨床教室へ通いながら、板橋区常盤台の“ときわ歯科クリニック”というオーナー付きの開業医院で働き始めました。
(河邊臨床教室と就職口を世話してくださったのは、北海道医療大学の当時クラウンブリッジ補綴Ⅱの坂口教授でした。3カ月前、彼のお別れ会が札幌で開かれ、私はその場で、私の歯科医師として生きていけるキッカケを作ってくださった事に感謝しても尽くせない、遅過ぎたお礼の言葉を述べさせていただきました。)
オーナーは坂口教授の手前、2人の経験豊かな歯科医師を教育係に用意してくださいましたが、お2人共いい加減な方達で、あっという間に辞められ、気が付けば私がときわ歯科クリニックの院長でした。
1日平均50~60人の患者さんを1人で診療し、夕方からは外科担当のバイトの先生が加わり、4台のチェアーはフル稼働……朝の9時から夜の9時まで、顧みれば不眠不休とは、あの時のこと……と我ながら我が身の働きぶりに感心したものです。
たまに帰る実家では娘と遊ぶ余裕さえなく寝込んでしまう私は父に「辞めろ! 辞めてしまえ!」と怒られたものです。
それでも、その頃の私は、勉強はもちろん、働く事自体が楽しくて仕方がありませんでした。
なぜなら楽しい職場をさらに楽しくしてくれるみゆきちゃんというスタッフがいてくれたからです。
ところが彼女は私の器用な仕事ぶりに驚き、自らも技工士になりたいと言い出したのです。そこで、彼女の実家が私と同郷ということもあり、父の世話で彼女は福井の技工士学校へ入学し、主席で卒業し、父の友人の歯科医院へ勤め………音信不通になりました。
みゆきちゃんが去って3年後、世の中の運が全て私に降臨したかのように、私はときわ歯科を買い取り、本物の院長になりました。
(この時の話を聞いてください!)
買い取る数ヵ月前、オーナーと取引のあったリース会社の重役さんに「ときわ歯科が欲しくないか?」と聞かれ、「欲しいですが、お金がありません」と答えて、しばらくすると、突然印鑑を持って来るようにと電話がかかってきました。
2~3時間後、駆け付けると、重役さんは「さあ、天井君、この書類に印鑑を押しなさい!」「エッ、何も読んでいませんが……」「いいから押しなさい!」「では、あなたの目を見て押しますが、いいですか?」
「いいですよ、押しなさい」
私は震える手で実印を目の前の書類に押しました。
オーナーのビルから外へ出ると空は美しい夕焼けでした。
「お食事でもいかがですか?」とお誘いすると、「天井君、僕は本社に帰る新幹線でビールを飲むのが大好きなんだが…きょうのビールは美味しいだろうなぁ~。君は明日からが大変だ! 頑張るんだよ!!」とサッと駅へ向かわれてしまいました。
…カッコイイ……(立ち尽くす私…)
金もない、担保もない、何もない私は次の日、ぼろぼろのジャガーを転がし、近くの銀行へ駆け込み、融資係を脅し、近所の噂だけでお金を引き出させたのです。
この時の融資係は後々笑いながら言いました。
「君、あの時のことを覚えているかい? 短パンとタンクトップで金を出せ! と僕を脅したんだから…だけど君のおかげで仕事の仕方を学んだよ。今じゃあ1番出世さ!」と言って、私の患者さんになってくださいました。
東京で働いて30年。
最近、田舎の母が倒れ、父もヨボヨボになりました。
すると消息不明だったみゆきちゃんが、私が始めたFacebookを見つけ、遊びに来てくれるようになり、先日は私の実家の掃除を手伝ってくれました。
そろそろ仕事を辞めたくて仕方がない私に、みゆきちゃんが目をキラキラさせて、「先生、今回は掃除でしたが、一緒に働けて嬉しかったです。
先生、いつか、いつかまた、一緒に働きたいです!」と言ってくれます。
私はなんて素晴らしい人達に出逢えて来たのでしょうか!
いつか、書かせていただきます。
あなたに逢えて良かった! と……