天ママStyle vol.86 衛生士たるもの
36歳で歯学部を卒業して30年、今まで多くの衛生士と関わってきましたが、その中で特に印象に残っている衛生士を紹介しましょう。
可愛かったAさんという衛生士
言われた事はこなすのに、“気を遣う”とか“先を読む”事が出来ず、常に「ライト! バキュームA!」と注意されている事さえ気にもせず、ただただニコニコしているので患者さんのウケは良い子でしたが、私としては常に指示を出す事に疲れ、気の利かなさに爆発していました。
ある時、Aさんのお母さんが医院に立ち寄られ、「いつも娘がご迷惑をお掛けして申し訳ありません。本当は私が仕込まなくてはいけない事を、先生に仕込んでいただいて感謝しております」と頭を下げられました。
Aさんはきっと家に帰り、私に叱られた事をお母さんにグチっていたのでしょうが同情されず、「お前が悪い!」と諭されていたのだと思います。
Aさんは10年以上私の下で働き、私が紹介したイケメンと結婚しました。「先生、教えていただいた“気を遣う事”で主人のご両親やご近所の方々とも上手に付き合っています。そして、先生のレシピのおかげで主人の友人達からは料理上手な奥さんと思われていて、皆さんが遊びに来てくれます」
この事を機に、1人暮らしの衛生士を採用する事をやめました。
美人のBさんという衛生士
面接時に彼女はこう言いました。
「高校を出て歯科医院でアルバイトをしている時、衛生士という仕事を知り、衛生士になりました。卒業する時、先輩に1人前になりたかったら怖い女の先生のところで働きなさいと言われ、天井先生を見付けました。私を仕込んでください」
このBさんがすごかった!! 覚えがいい、優しい、明るい、よく気が付く…仕事の先を読み、指示を出す前に手が出てくる。患者さんへのパンフレットを作るのはお手のもの…。彼女が立派な衛生士になった頃、結婚するために辞めてしまいました。
彼女のように目的がしっかりした衛生士は、ブレなくて、早く立派な衛生士になり、結婚も早いかもですね。
最近の衛生士が必ず口にする言葉があります。
“予防をやりたいです!”
そこで私は“学校で予防をどう学びましたか?”“あなたの思う予防の定義は?”“衛生士として患者さんに予防をどう説明しますか?”“そして、どのように予防をやっていきますか?”と聞きますが、答えはうやむやのまま。
衛生士学校が3年制になり、おりこうになった分、少し様変わりしているようです。“予防”“審美”“インプラント”というカッコイイ治療に興味を持ちながらも、その予防にはどう関わるのか、審美は…インプラントには衛生士として何が出来るのかとまで思いを深めて、地道な努力をしようとはしません。
鼻ばかりが高く、スケーリングをさせれば取り残し、srpとの違いが分からず、アシストをさせればでくの坊状態…やれやれ…
私が思うに衛生士業務は、歯科治療をする歯科医師を補佐し、治療がスムーズにいくように衛生業務を含め事前準備からアフターケアーをフォローする業務の事をいいます。
そのため①治療前の患者さんのお口の中を確認し、②治療途中の口腔状態の確認をしながら、③歯科医師と治療の進み方の確認、さらに④治療後の定期検診の管理等を含み、手早いスケーリング、確実なsrp、納得のブラッシング指導を患者さんに優しさと笑顔を振りまきながら行わなければいけません。
優しいD子さんという衛生士
D子さんは5~6ヵ所の診療所勤務と公共施設の衛生士業務経歴を持った方なので、私からお願いして来ていただきましたが、仕事が出来ません!
いや、出来ないというより、普通の衛生士の完成形なのかもしれませんが、私には納得出来ません。そこで、今までの職場で付いたクセを取り払い、仕込み直しから始めました。
その“クセ”とは…
①指示しないと動けない
②目の前の事以外、気が付かない
③思い込みが強く、反省の積み重ねがない
④年齢と経験から得る総合職としての歯科衛生士業務を把握していない
(例)予約の取り方を理解していない、治療説明のフォロー不足、自院のアピール不足、コストパフォーマンスを考えた事がない、治療内容の理解が浅い
「もう無理です。辞めさせてください」
「辞めることならん!
その年で私に関わった以上、あなたが衛生士として完成するまで辞めさせません! ここで仕事を続けなさい。あなたの人生が必ず楽しくなります!!」
私は彼女の辞表を机の奥深くにしまってしまいました。
(追伸)現在の彼女ですが、とても素敵な衛生士になって、楽しそうに頑張って働いてくれていますよ。