天ママStyle vol.93 “「ゆとり君」その後Ⅰ”
半年経った「ゆとり君」のその後の経過をお伝えします。
相変わらず患者さんがいない時は携帯をいじくり、昼休みは外へ出たまま帰って来ません。
4~5冊の本を渡してありますが、読んでいる気配さえもありません。
靴の踵をつぶして履くので、バタバタ音がして、さらにダブダブの白衣の着方で、どこから見てもだらしなさが目に付きます。単なるカバーメガネに引っ掛けているルーペが邪魔で、ゆとり君の気力のない目が見えません。
これらのすべてを注意すると、「大学ではこうですから…」と聴く耳を持たず状態……
「そういうの“馬耳東風”というのですよ」と笑いかけると、「なんですか、それ?」。思わず「じゃあ“春眠暁を覚えず”は?」、ゆとり君は自信たっぷりに「知りませんヨ!」。
最近、やっとインレー形成がまあまあになり、ホッとしていると、ある朝ブリッジ形成後の模型が2つ並んでいます。その2つの模型を新米のスタッフ(歯科助手)が見ながら悩み顔…
「どうしたの?」「先生、このブリッジ、入りませんよね」「確かに入りそうもないわ。先生に見せたの?」「はい、でも大丈夫と言われましたが、気になって技工所には出していません」「分かった、ありがとう。気が利くのね」
私はゆとり先生に模型を見せて、「このブリッジは入りませんよ」「え~、そうですかね。テックは入ったんですけど」。その生意気な返答はなんだと怒りたいのを我慢して、「ヘタなテックはどんな形成のブリッジでも入りますが、そんな基準値よりも、技工所に出す前に確認してください」「確認しました!」「アラ…だったら、そのメガネにくっついているルーペがおかしいのかしら…、それとも、どこがダメなのか分からないのですか?」「いや! そんなことは…」
私は鉛筆で何ヶ所かのアンダーカットを塗りつぶして、模型を置きましたが、未だ不服そうなゆとり君の顔!
追い打ちをかけて告げました。「こんな模型を出されたら、困るのは技工士さんです。技工士さんに“上手い”と言われる形成をしなさい」
ある日も
「この抜歯をやってみませんか?」
「いや、結構です」と即答…
そもそも、特に大学に残った研修生に多いのですが、何をせずとも何も言われず、それでも、国からはお給料が頂けて、大学に来られる患者さんからは「先生」と呼ばれ、“やる気”が無くてもなんとかなる卒後研修制度が“やる気”の芽生えを摘み取っているような気がします。
では、どうすればゆとり君に“やる気”を持ってもらえるのでしょうか。
「努力しなさい!!」もダメでしょうね。彼等にとっては“努力”という言葉は死語に違いありません。
「自分が患者さんや他人からどう思われているか気にならないのですか!!」
「はい、気になりません」でおしまいです。きっと…
歯を削るより身を削る思いで、誰よりも朝早くから診療所へ入り、休みの日はセミナーの受講で手一杯、それでも娘のためにお弁当は欠かさず作り、泣きたくなる程疲れ果てても、毎日一生懸命笑顔で患者さんとお話をし、スタッフ達に同情され、励まされ、毎月毎月の自転車操業で飢えを忍び、それでも患者さんの喜んでいただける笑顔が嬉しくて…
少しでもいい仕事を、誰よりも上手な仕事を…と思って、その思いが“やる気”になって、ここまで働いて来たのですが…
私は“やる気”は“生きる気”で、生きるためには働かなくては…
「働かざるもの食うべからず」と思っていたのですが…
こんな事をゆとり君に言ったら、「昔話ですか…」と冷ややかに言い放たれそうで恐いのです。
誰か“やる気”を植えつけるセミナーか相談会をやりませんか…
困ったものです。